専門職社会人音楽家が音楽について書いています。

ピアノの弾き方@奏法論

「先生は○○門下ですね。」
医学界において、これは結構なキーワード。○○門下とか、△△大◆◆内科、などというと、大体の腕が類推できるらしいし、考え方の基本的なところは透けて見える。
ピアノはどうだろうか。やっぱり、流派によって、弾き方がかなり異なる。
同じように、「○◇門下」は時々独り歩きする。
弾き方について考えてみよう。
椅子の高さ、鍵盤との距離、腕の位置、指の形、鍵盤のタッチなどなど、きりがないが、ある程度の傾向がある。
ざっと分けると、椅子の高さかなと思っている。
低い椅子でどっしりと構えるか、高い椅子で見下ろすように構えるか。
低い位置で弾くと、腕の重みが鍵盤にしっかりとかかりやすい。打鍵を深くして重厚な音を狙うならこちらがよいだろう。
高い位置で弾くと、指と手のひらで体重を支えて、打鍵をコントロールすることになる。浅い打鍵で中間色のような色彩を出すならこちらが有利かもしれない。
高い座り位置から、低音成分の倍音を十分に含ませた重厚な音を出すのは簡単ではなく、かなり訓練が必要かもしれない。

その昔、日本のピアノの生徒は「ハイフィンガー法」と呼ばれる弾き方を習いました。
「卵のかたち」に手を保ち、指先は垂直に鍵盤に向かう、というものでした。
時代が流れて、何人もの有名な日本人ピアニストさんたちが、世界に通用せずに苦労をされて、いろいろと演奏法や指導法を学ばれたその結果、ハイフィンガーの呪縛からピアノの生徒が解き放たれたといわれております。
代わりによく聞く奏法は、「重力奏法」であります。
ロシア奏法とか、指歩き奏法とかと言われるものも、たいがいは「重力奏法」のなかまです。
体重を腕から指先へ、そして鍵盤からハンマーへ、自在に伝えるための効率的な弾き方を考えると、肘から末梢側は曲がっていないほうが良いでしょう。
そして、指の第三関節(付け根の関節)で体重を支え、細かい動きはローリングや、重心移動で行うことになり、指そのものの速い動きは重要性が少なくなってくるらしい。

さて、わたくし、自分の奏法を眺めてみると
いろんなものを混ぜているなと思います。
古典的なものを弾く時は、それこそ生卵でテーブルをたたいているような感じが欲しくて、ハイフィンガー的です。
同じ古典の楽曲のなかでも、ちょっと色気を出したいなというときに、重力奏法的に弾き方が変わっている様子です。
ロマン派以降になると、ハイフィンガー的な弾き方では弾ききれない部分が多いので、文字通り手の内で転がしているような感じになっている様子です。
腰の立て方、背中の角度を調整して、見下ろすか、深い打鍵をするか、を調整しているようです。

その弾き方はダメ、とか、○○奏法が絶対いい、とか、それはどうなんでしょうかね。
奏でたい音楽に、出したい音色に、ちょうどよいものを自分の引き出しの中から出せたら、それがいいんじゃないかなと思っています。
ハイフィンガー、わたしは否定しません。

人間性豊かな指導者に恵まれても、検査至上主義から抜け出せなかったり、戦いましょうと言い続けたりする医者もいる。
経歴は素晴らしいのに、全く尊敬できない種類の人もいる。
しかしながら、どんな環境で育ってきても、切れがよくてセンスがいい、ときに人の気持ちがわかる医者が確かにいるわけですから、自分の音楽を探し続ける旅はきっと無駄ではありません。